こんにちは。株式会社エフカラー代表取締役の田平智子です。
第2回では「研修の設計図」をお話ししました。第3回となる今回は、いよいよ実践編。初心者の会社と既習の会社で設計はどう変わるか、1回か複数回か、実務に直結する研修題材、そして苦手な人の巻き込み方まで、たっぷりお話ししますね。
初心者の会社/既に使っている会社、そして1回か複数回か
———初心者が多い会社と、すでに一部の社員がAIを使っている会社では、研修設計はどう変わりますか。研修は1回完結型と複数回、どちらが効果的ですか。
(田平)土台があるかどうかで変わってきます。初心者の方が多い場合は、「これをやってみましょう」という内容を確定させてレクチャーします。すでに使っているよ、という社員さん向けには、自分の業務からできる内容をピックアップして、その場で実際に効率化してみる。同じ研修でも、設計はかなり違ってくるんですよ。
初心者の方がいちばん詰まるのって「で、何に使えばいいの?」なんですよね。だからそのような方には、用途についてはこちらからご提案する方がスムーズだと考えています。業務を一緒に棚卸しして「この作業、このプロンプトでこれだけ楽になりますよ」と見せて差し上げると大変喜ばれますね。
研修は1回か複数回かというと、複数回が絶対にいいですね。理由は大きく3つあって。一つは、スピード感。定期的にブラッシュアップされた内容を受けていただくのがいい。二つ目は、一度では成長しきれないから。習ったことを業務に落とし込んで、つまずきや工夫を持って次の回に臨む。濃さがまるで違うんです。三つ目は、角度の違い。部署だけでなく、AIへの親しみ方のレベル差もある。1回で全員に同じノウハウを持ち帰っていただくのは、現実的ではないと思います。
これね、研修中に受講者の方自身が「この業務を改善する」というゴールを決めて、「次回までに実際に作ってきてね」と宿題を出す、という進め方とも重なるんです。すると終わったあとに「あれ、うちマニュアルないよね」「このデータ、貯めておかなきゃ」って、会社全体の課題まで芋づる式に見えてくるんです。最初に火をつけて、そのあと何度も小さく薪をくべていく。だからこそ、複数回なんですね。
実務に直結する研修題材【中小企業向け保存版】
———研修内容を実務に結びつけるには、どんな題材を扱うと効果的ですか。
(田平)ここは、現場の実例を厚めにお話ししますね。エフカラーがお客様と一緒に試してきた感覚に加えて、いろんな方が発信されている事例を、中小企業さんで再現しやすい順に並べました。
① 議事録 → ナレッジ自動蓄積(属人化解消にいちばん効く)
打ち合わせの録音を文字起こしして「週1回、勝手にナレッジが更新されるようにしておいて」とAIに頼む。この方法だけで、頭の中にしかなかったノウハウや、あの人しか知らない属人的な仕事が、どんどん言葉になって溜まっていく、という事例があります。中小企業さんほど「あの人がいないと回らない」が多いので、再現性がめちゃくちゃ高いと感じています。
② 経理・領収書処理(月2時間 → 10分の体感)
毎月2時間かかっていたカード明細と領収書の処理を、実質10分にした、という事例があって。AIが「明らかに経費」「明らかに経費外」「要判断」の3つに仕分けて、迷うものだけ人間が見る。一度判断したルールは学習され、次からは自動になるそうです。
③ 社内問い合わせボット(PDF1枚から、3ステップ)
社内規定のPDFを読み込ませて、問い合わせに自動で答えるボットを作る、という方法もあります。「出張申請これで合ってる?」「残業ってどうつけるんだっけ?」に、AIが規定を見て答えてくれる。エンジニアの知識はいらず、PDFを渡す・設定する・使ってみるの3ステップです。
④ 営業の音声録音 → 分析(ベテランの勘を、誰でも再現)
訪問営業の会社さんが商談の録音をAIに分析させて、トップ営業と同じ粒度で提案できるようにしたら、受注率が約1.5倍になった、という事例もあります。高いツールは使わず、録音をGoogleドライブに置くだけで自動分析され、スプレッドシートにまとまる仕組みで完結しているそうです。
⑤ 資料・グラフ作成(「おっ」と前のめりになる題材)
試算をAIに頼んだら美しいグラフでパッと出してくれた、という声もあります。Excelで計算して作図する手間が、一瞬に変わる。どの職種でも必ず発生する仕事なので、研修で見せると一気に空気が変わります。
⑥ 求人票作成(2時間半 → 30分)
求人票を1本作るのに、調査やヒアリングを含めると2時間半ほどかかるところを、AIで30分程度にできる、という事例も。人手が足りない中小企業さんほど、採用にかける時間は貴重ですから、研修でお見せすると大変ご興味をいただく題材です。
こんなふうに、効果を実感しやすいのは、頻繁に繰り返しがある作業なんですよ。月に一度より、毎日30分かかっている作業を10分にするほうが、体感は圧倒的に大きい。ご自身の業務日報を眺めて、「これ、毎日やってるな」と気づいたものから手をつけてみてください。

苦手な人と前向きな人、どう巻き込むか
———AIに苦手意識がある社員と、前向きな社員が混在している場合、どう巻き込んでいきますか。
(田平)一番最初の最初なんですけど──会社の中で最初にAIを学ぶ社員が、ポジティブになるかネガティブになるかで、その後の社内の利用率が大きく変わると感じているんです。最初の人が「結構めんどくさいよ」と話すのか。それとも「めちゃくちゃ便利だよ、もうAIなしじゃ仕事できない」と話すのか。これで、社内の文化や風が、まるで変わってくるんですよ。
この感覚には、裏づけもあって。MIT(マサチューセッツ工科大学)などの調査では、生成AI導入の約95%が、期待した成果を出せていないと報告されているそうなんですね。しかも、その失敗の根本原因は技術ではなく、「人の心理」と「現場フローへの不適合」にある、と。最初に触れた人の体験が、まわりの空気を通じて、組織全体の利用率を左右してしまう。だからこそ、一番最初の導入の一手が、本当に大切なんです。
これ、社外の知見が私のスタンスと驚くほど重なっていて。これはメルカリでAI推進を担うハヤカワ五味さんがお話しされていたことなんですけど、社内導入には「技術理解の壁・組織の壁・人の壁」の3つがあって、いちばん大きいのが「人の壁」なんだそうです。「AI怖いよね」「私には関係ないかな」っていう、なんとなくの抵抗感。これって責めても消えないんですよね。だからこそ、一緒に走りながら、ほどいていくものだと思っています。
ハヤカワさんは、「100人の会社なら、もう1人2人は必ずAIに目覚める人がいる」ともおっしゃっていて。だから全員を一気に変えようとしなくていいんです。しかも、こっそりAIを使っている人(シャドウ利用)も意外と多い。その隠れている一人を見つけて、「それ、すごいね」と光を当ててあげること。北風で全員を吹き飛ばすより、太陽みたいに、ひとりの成功体験を社内であたためて広げていく。そのほうが、結局いちばん早いんですよ。
「社内を巻き込むときは、やれと言うんじゃなくて、勝手に盛り上がるのが一番いい」という見方もあるそうです。誰かが楽しそうに使っていると、まわりが「いいなあ」と思って、自分から「ちょっと教えてください」って入ってくる。混在しているチームを、いっぺんに変えようとしなくていい。一人ひとりの「楽になった」を、丁寧に積んでいく。それが、いちばん確かな道だと感じています。
———ありがとうございました。次回はいよいよ最終回です。一番の要ともいえる「AI研修の定着化・内製化」について詳しく伺います。

よくあるご質問(FAQ)
Q. 初心者が多い会社では、何から教えればいいですか?
用途を考えさせるのではなく、こちらが用途を用意して差し上げるのがコツです。業務を一緒に棚卸しし、「この作業がこれだけ楽になる」と具体で見せると、初心者の方ほど前に進みやすくなります。
Q. 研修で扱うと効果的な題材は?
毎日繰り返す作業がおすすめです。議事録のナレッジ化、経理・領収書処理、社内問い合わせボット、営業録音の分析、資料・グラフ作成、求人票作成など。月1回の作業より、毎日30分の作業を10分にするほうが体感が大きいです。
Q. AIに苦手意識のある社員は、どう巻き込めばいいですか?
全員を一度に変えようとせず、最初の一人(すでにこっそり使っている人など)に光を当てるのが有効です。「やれ」と号令をかけるより、楽しそうに使う様子が自然に広がる「太陽型」が定着します。
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📚 シリーズ・関連記事
第2回:研修の設計図 / 第4回:AI研修を「やって終わり」にしない(定着・内製化編)
AIO時代の検索とサイトのあり方 第1弾 / 第2弾
📎 参考・引用元
本記事で田平が触れた社外の知見の一次情報です。「こういう事例・こういう根拠」は、以下の発信者の方々の発信に基づいています。
・生成AI導入の約95%が測定可能な成果(P&L改善)に至っていない ── MIT NANDA initiative『The GenAI Divide: State of AI in Business 2025』(2025年8月公表)|関連報道(Fortune)
・導入の「人の壁」/100人なら1〜2人は目覚める/初心者には用途を用意する ── メルカリでAI推進を担うハヤカワ 五味さん|会社員がAIを使わない納得の理由・AIネイティブ化と利用率95%達成の裏側
・議事録→ナレッジ自動蓄積/営業録音→受注率1.5倍/求人票2.5時間→30分/宿題型研修 ── 300社以上のDX・AI研修を支援する矢嶋 拓弥さん|今すぐパクりたいAI活用事例10選・AI研修が失敗する理由と成功する研修の違い
・経理・領収書処理が月2時間→10分(9割自動) ── AI活用を発信する池田 朋弘さん|Claudeに経理を任せたら9割自動になった話
・社内問い合わせボットをPDF1枚から3ステップで ── ユースフルあっきー(秋山 望美さん)|Copilot×AIエージェント 社内問い合わせbotの作り方
・試算をAIが美しいグラフに即出力 ── DeNA 現場社員|「AIにオールイン」DeNA現場社員のAI活用最前線
・巻き込みは「やれと言わず勝手に盛り上がる」のが一番 ── 経営学者入山 章栄さんほか|生成AIと組織変革
プロフィール|田平 智子(たびら さとこ)
株式会社エフカラー 代表取締役。Webプロデューサーとして15年以上にわたり中小企業のWeb戦略・コンテンツマーケティングを支援。「関わる方全てに、実り多く彩り豊かな変化をもたらす」を理念に、女性クリエイターのみで構成されたエフカラーを率いる。顧客リピート・紹介率95%。SEO・AIO対策・AI活用支援・AI研修を一貫して提供している。


