こんにちは。株式会社エフカラー代表取締役の田平智子です。
いよいよシリーズ最終回です。第3回までで、研修の始め方・設計・実務への活かし方をお話ししてきました。第4回となる今回は、研修を「やって終わり」にせず、定着・内製化させていく進め方を、現場の言葉でお話しします。「研修の先」で悩まれている方に、明日からの一歩をお届けしますね。
目次
研修後に現場でぶつかる「壁」の正体
———研修後に現場で使い始めるまでに、起こりやすい壁は何ですか。
(田平)聞いただけで終わってしまう、というのが大きいですね。今までの業務でもできていたのに、新しいことを覚えなきゃいけない、設定しなきゃいけない、ルールも増える。“楽になっている未来”がまだ見えていないときには、「会社がやれって言ってるから」で止まってしまう。それだと、なかなか定着しないんです。
この壁について、「ツールを配るだけなら簡単。でもそれで変わるなら、もうとっくに変わっているはず」という指摘もあるそうなんですね。配っただけのAIは、武器にならず、ただそこにあるものになってしまう。だから研修のあとに、その人の実際の業務に落とし込むところまで伴走することが欠かせません。
もう一つ、見落とせない壁があって。「評価制度(組織)の壁」です。「100の仕事が50で終わっても、空いた50に別の仕事が降ってくるだけなら、社員はわざわざ効率化を言わない」という指摘があって、これってサボりじゃないんですよね。仕組みの問題なんです。
だからこそ私は、研修のレクチャー時に、会社としての評価と、提案のルールをセットで組み込むことを勧めています。たとえば、上司に提案するときは、必ずAIに確認・ブラッシュアップしてもらってから提出する、というルールにする。「ここはみんなが通る道だよね」というところに、柔らかく入れ込んでいくんです。それと、研修の前に「これをAIに任せたい仕事を3つ洗い出しておいて」とお願いしておくと、「じゃあ早速これやってみよう」とイメージが膨らみます。AIは丸投げする相手ではなく、段取りを相談して一緒に育てていく相棒なんですよ。
情報漏えい・著作権・誤情報、どこまで伝えるべきか
———情報漏えい・著作権・誤情報などのリスクは、研修でどの程度伝えるべきですか。
(田平)これは、確実に伝えるべきだと思っています。会社としてルールを設けていないと、何をどこまで使っていいか分からない。分からないまま自分勝手に“野良”でAIを使う状態になると、どこで誰が何をしているのか把握できなくなってしまうんですね。
———“野良”AIですか。なかなかインパクトのあるお言葉です。
伝え方には工夫がいるので、敢えて強めの言葉を使ってみました。でもいたずらに脅してしまうと、せっかくのワクワクが消えてしまうので詳しく説明しますね。
これはセキュリティ専門家の米内貴志さんがお話しされていたことなんですけど、AIって「めちゃくちゃ優秀だけど、めちゃくちゃ騙されやすい、超素直な新入社員」みたいなもの、というたとえがあって、すごく腑に落ちたんです。仕事はできる、でもパスワードをくれと言われたら開けちゃう。これってAIを怖がる話じゃなくて、新しいメンバーをどう育てるかという、私たちが毎日やってきたことと同じだなと感じています。
米内さんは、AIセキュリティの最低ラインを「分ける・残す・防ぐ」の3語にまとめていらっしゃって。権限と作業環境を分ける、ログを残す、あやしいものを入れない。まずこの3語を社員全員の合言葉にするところから始められます。それと、学習利用のチェックを外す、クレジットカードやパスワードをAIに打ち込まない──これは全部1分で終わる、というお話もあります。一番やさしいところから、全員でそろえていきましょう。
誤った情報をもっともらしく返してしまうのも、AIの特性です。ここは、「精度が何%になったら使う」ではなく、「機械に任せる所と、人が必ず確認する所の線引き(ガードレール)」で設計するといい、という考え方が実践的だなと。「AIは嘘をつくことがある。だからここは人が見る」というガードレールをセットで伝えるのが、いちばん誠実だと感じています。著作権や規約も、SNSやサイトを自動で読み込むサービスが規約に違反していないか、作る前に一度止めて確認する。その一拍を、研修では技術より先に伝えたいと思っています。

現場で使われるプロンプト集・活用事例集の作り方
———プロンプト集や活用事例集は、どのように作ると現場で使われやすくなりますか。
(田平)まず大前提として、みんながここを見れば全部揃っている、という共有の保存先を決めること。ここが、いちばん具体的で大事なところですね。そのうえで、形骸化させないために大事だと感じているのが、使ったその場で残していくこと。プロンプト集って、きれいに清書して棚に並べると、だいたい誰も開かないんですよ。
これね、便利だった作業をその場で「これスキルにして」と一言伝えるだけで、あとは「図解して」と言うだけで毎回同じ品質で再現してくれる、という考え方とぴったり重なるんです。つまり、活用事例集は「読む資料」ではなく、「呼び出したら毎回同じ品質で動く手順」にしておくと、現場で本当に使われる。保存先も、部署ごとのフォルダにアウトプットを溜めていくと、AIが必要なものを自分で探しに行ってくれる。普段の共有フォルダの中に自然に溜まる設計にしておくのがコツです。
そして、事例集って上から配るより、横で見せ合うほうが根づくんですよね。良いやり方は「横の同士でお互い学び合う」もので、自然に社内エヴァンジェリストが生まれて、ランチタイムなどに共有会をやっている、というお話もあります。ランチの雑談で「これ便利だったよ」と見せ合えるくらいの軽さにしておくのが、いちばん回ります。
AI推進リーダーは「一人の英雄」にしない
———社内でAI活用を推進するリーダーは、どんな役割を担うとよいですか。
(田平)「リーダー」というと、一人だけのイメージがあると思うんです。でも、それはちょっと危ないのかな、と感じています。概念的にワクワクさせるリーダーも必要だし、セキュリティをちゃんとしたいというリーダーも、作業の手順を考えるリーダーも必要。部署のリーダーもいれば、会社全体のリーダーもいる。役割を、漏れ落ちなく分担したチームを作っていくことが必要だと思うんですよ。
実際、安全なAI開発を「プロダクトマネージャー+実装+セキュリティスペシャリストの3人体制」で回している、というお話もあるんですね。一人に全部を乗せると、その人が倒れたら止まってしまう。役割を分けて、チームで走る。中小企業さんでも、社内の3人で役を分担するだけで真似できます。ルール決めなら情報システムの会社かもしれないし、困りごとを集約するなら総務や経営企画かもしれない。会社の規模感によって、いろんなリーダーを順番に育てて、推進チームを作っていく。そこまで相談できると、変化の速いAIの中でも、揺らぎにくくなると感じています。
もう一つ大事なのが、世代と役割を混ぜること。「若いデジタル得意な子に任せる」と思われがちですが、実は逆もすごく重要なんです。「シニアが使いこなすほど価値が出る」、そして「AIの答えをチェックできる経験豊富なシニアと、ひたすらAIと対話して伸びる若手、この両方が強くなる」という分析もあるそうです。ベテランの判断力と若手の手の速さを混ぜるのが、いちばん強い。一人の英雄ではなく、組み合わせるチームなんですね。
最初に考えてほしい、たった一つのこと
———これからAI研修を検討する中小企業の担当者へ。「最初に考えてほしいこと」を一つ挙げるとしたら。
(田平)何度も言いますけど、最初の入口でつまずくと、その後ずっとネガティブな空気が残ってしまう。だとすれば、やっぱり一番最初をいかに入りやすく、優しく、簡単に、みんながワクワクするように伝えられるか。ここを、考えてほしいんです。前にも触れたMITなどの調査で、生成AI導入の約95%が期待した成果に至っていない、という報告がありましたけど、その分かれ目は技術力よりも「最初の体験」なんですよね。
費用がいくらか、効率が何時間変わるか。会社なので、それも絶対に大事です。でも、それより先に、一番最初に頓挫しない。私たちは“循環”を大事にしているんですけど、ちゃんと巡っていく流れを、これからも作り続けていける。それが、何より大事だと思っているんですよ。
あと、これも背中を押されたお話なんですけど、「経営者こそ使うべき」だ、と。AIに何をやらせるかを決める力、向かうべき方向を定める力。これって、経営者やリーダーがもともと一番得意なことなんですよね。新しいスキルを一から覚える話ではなく、今ある強みがそのまま生きるツール。そして、AIを動かすのに一番大事な力は「言語化に尽きる」と。磨くべきは英語ではなく国語力。特別な技術がなくても、自分の頭の中を言葉にする練習から、誰でも始められます。「朝、おはようと言うと、AIがカレンダーとタスクを見て、今日の予定を秘書のように組んでくれる。そこから始めるだけでいい」——そんな小さな「できた!」を一つ持つこと。その最初のワクワクが、その後を変えていくと思っています。

よくあるご質問(FAQ)
Q. 研修を受けたのに、現場でAIが使われません。なぜですか?
「楽になる未来」が見えていないことと、評価の仕組みが整っていないことが主な原因です。「早く終わっても別の仕事が増えるだけ」では社員は効率化を口にしません。提案時にAI活用をルール化し、頑張りが報われる空気を作ると使われ始めます。
Q. 情報漏えいや著作権は、研修でどこまで伝えるべきですか?
確実に伝えるべきです。脅すのではなく、「分ける・残す・防ぐ」の合言葉や「学習設定を外す・機密情報は入れない」など1分でできる習慣から。誤情報には「ここは必ず人が確認する」というガードレールをセットで伝えます。
Q. AI推進リーダーは一人に任せていいですか?
避けたほうがよいです。ワクワクを広げる役、セキュリティを守る役、手順を整える役など、役割を分担した「推進チーム」が理想です。ベテランの判断力と若手の手の速さを混ぜると、より強くなります。
Q. これから始めます。最初に何を考えればいいですか?
「最初の入口を、いかに優しく・ワクワクさせられるか」です。小さな成功体験を一つ作ること、そして自分の課題を言葉にする「言語化」から始めると、無理なく続きます。
まとめ──循環し続ける流れを、一緒につくる
(田平)全4回、おつきあいいただきありがとうございました。研修を“やって終わり”にしないために、いちばん大事なのは、一番最初に頓挫しないこと。そして、ちゃんと巡っていく流れを、これからも作り続けていけることだと思っています。業務効率が何時間変わるか、費用がいくらか──それも大切。でもその手前で、みんながワクワクして、続けたくなる。その循環を作れるかどうかが、研修の成否を分けると感じています。
エフカラーでは、中小企業のAI研修・定着支援・社内ルール整備・内製化の伴走まで、お客様の現場に寄り添うかたちでご提供しています。リピート・ご紹介率は95%。優しい研修だと、企業のみなさまから好評をいただいています。どの段階のご相談でも、まずは現状をうかがうところからご一緒できます。
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📚 シリーズ・関連記事
第1回:なぜ今AI研修か / 第2回:研修の設計図 / 第3回:実務に効かせる研修と巻き込み
AIO時代の検索とサイトのあり方 第1弾 / 第2弾
📎 参考・引用元
本記事で田平が触れた社外の知見の一次情報です。「こういう根拠・こういう事例」は、以下の発信者の方々の発信に基づいています。
・生成AI導入の約95%が測定可能な成果(P&L改善)に至っていない ── MIT NANDA initiative『The GenAI Divide: State of AI in Business 2025』(2025年8月公表)|関連報道(Fortune)
・「ツールを配るだけでは変わらない」/巻き込みの考え方 ── ブリューアス樋口 隆広さん・経営学者入山 章栄さん|生成AIと組織変革
・「評価制度の壁」(早く終わっても別業務が降ってくる)/AIは丸投げでなく一緒に育てる ── メルカリハヤカワ 五味さん|会社員がAIを使わない納得の理由、AI活用を発信する池田 朋弘さん|Claude Codeへの丸投げをNG!エージェントPDCAサイクル
・AIは「騙されやすい超素直な新入社員」/「分ける・残す・防ぐ」/PM+実装+セキュリティの3人体制 ── セキュリティ専門家米内 貴志さん(GMOフラットセキュリティCTO)|非エンジニアでも必須のセキュリティ常識、最低限の対策はAI仙人|AIの情報漏洩を対策!セキュリティ基礎
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プロフィール|田平 智子(たびら さとこ)
株式会社エフカラー 代表取締役。Webプロデューサーとして15年以上にわたり中小企業のWeb戦略・コンテンツマーケティングを支援。「関わる方全てに、実り多く彩り豊かな変化をもたらす」を理念に、女性クリエイターのみで構成されたエフカラーを率いる。顧客リピート・紹介率95%。SEO・AIO対策・AI活用支援・AI研修を一貫して提供している。


